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その通り道の中で、王女の慕っていたバンケルクを死に追いやり、弟であるフィルハンドラも斬って棄てた。ハンベエにはその負い目が有った。いかさま知らぬ顔のハンベエと王女に対しては酷薄とも言えるほど冷淡な態度を装い、彼女の身内を斬った事など少しも気に留めない風に見せていたが、実際のところは気に病んでいないわけでは無かったのである。.勿論バンケルクやステルポイジャンとの争いはハンベエが企んだものではなく、元々起こるべき成り行きであり、エレナも又ノッピキナラナイ事情から争乱に身を投じたのであるが、ハンベエの身としてはそれすらも己のせいであるようにも感じられ、心苦しく思うところが有ったのである。尤も、この若者の不思議に乾いた心はジメジメとした罪悪感を抱いていたわけではない。ただ、事が終わった今となってはひたすら王女が元の平穏な暮らしに戻れる事を願っていた。が、どうやら事はそうは進まぬようだ。このまま新たな争乱に突き進む雲行きだ。) 確たる根拠が有るわけでもないが、ハンベエは肌に感じてしまっていた。所々で兵士に声を掛けては、『イシキンを見なかったか』と直属の伝令兵を捜し求める。(ボーンよ、何処にいる。俺はどうにも途方に暮れてるぜ。) その一方で、まだボーンが来ないものかと微かな期待を捨て切れないハンベエがいた。ボーンはボルマンスクにいた。そして、ボーンはボーンで災難に遭遇していた。いきなりだが、話は少し先に飛ぶ。英文故事書 イザベラがゴロデリア王国の東に位置する主要都市ボルマンスクに着いたのはセイリュウ誅戮の二日後であった。途中、太子ゴルゾーラ配下の哨戒線が幾つか有ったが、イザベラである。苦もなく擦り抜けて目的地に辿り着いていた。今は太子ゴルゾーラの居城であるボルスク宮殿の前を女官の出で立ちでさりげなく窺いながら過ぎようとしていた。夜になったら城内に忍び込もうと下調べをしているのだ。向こうから、兵士崩れ風の男が一人歩いて来る。兵士の恰好をした男はそこら中にいて珍しくもないのだが、イザベラは妙に気になった。. 歳は三十半ばであろうか、中肉中背ながら無駄の無い引き締まった体つきである。男は別にイザベラを気に止める様子もなくそのまま横を通り過ぎて行った。傍目にはただの通行人同士、何の問題も無いはずだ。しかし、イザベラはその男から油断のならない匂いを嗅ぎ取っていた。何者か、と思ったが、呼び止めるのもおかしいし、逆に下手に関わって藪から蛇が飛び出して来た日には目も当てられない。そのままやり過ごし、自身もボルスク宮殿の前を立ち去った。一方、イザベラとすれ違った男、かなり離れて辻を曲がった所で立ち止まり厳しい顔付きになって振り返った。その顔に見覚え有り。久しぶりの登場。サイレント・キッチン諜報員ボーンクラッシュことボーンであった。イザベラはボーンの事を知らなかったが、ボーンはイザベラの顔をしっかと覚えていた。素知らぬ顔で通り過ぎたが、内心それこそ『げっ、イザベラ。何しに来やがった。』てなもんである。この時期、こんな場所に現れたイザベラに大いに警戒心を持った。 関わりたくないと思ってる人間が俄かに向こうから現れたのには、ボーンという男の性格上辟易もしたが、仕事である。これも給金の内か、今回ばかりは避けて通れぬものと密かに宮殿警備を行う覚悟を決めた。その夜。本来宮殿を警備している衛兵達には見付からぬよう、ボーンは宮殿内の庭園に身を潜めた。しかし、人間は何故宮殿に庭園など設けるのだろう。人工的に作られたとは言え、樹木の陰や茂みなどまるで曲者に隠れる場所を提供しているようなものではないか。. ボーンは昼間イザベラを見掛けた事を所属しているサイレント・キッチンに報告しなかった。だによって、今回の隠密警備はボーン一人の腹積もりで行っているものである。